その3。
大阪支店長との最初の面談を終えた後、リフォーム事業
から撤退せざるをえないことをおぼろげながらに感じた僕
だったが、まったく慌てることはなかった。
それは、昨日も書いた通り、通信販売で絶対に成功できる
という確信めいた自信があったからだ。
というのもその昔、「竹藪2億円事件」なる世間を揺るが
した騒動があったのだが、その事件がこの頃の僕の持て
る限りの知識とシンクロしていたのである。
どういうことかというと…、
時は1989年4月のある日の出来事だった。当時39歳の焼
き鳥店店主が神奈川県川崎市高津区の竹藪で1億4500万
円の入ったバッグを発見。
さらに、その翌日には21才の青年が「2匹目のどじょうを
…」と、同竹藪を他のライバルがいる中探索したところ、
なんと本当に前日に続いて9000万円を発見したのだった。
そして、このお金の持ち主が当時、あらゆる少年雑誌で肉
体鍛錬の器具を広告掲載していた、青少年なら知らない人
はいないほど有名だった「日●会」の総帥であるN社長だっ
たのである。
この騒ぎの直後、「あれは私のお金です。返してください」
とN社長自らが報道陣の前に名乗り出て記者会見まで開い
たため、事の顛末が顕となった。
とどのつまりは、会社に査察が入るというので脱税のため
に慌てて竹藪に2億3千万円を置き去りにしたのである。
僕は社長の記者会見を見たのだが、「穴を掘って隠すなら
納得出来るけど、置き去りにするって、よっぽどこの社長
は儲けていたんだろうな」と思った事を今でも良く覚えて
いる。
そして、リフォームで独立した頃に、このN社長の「日●会」
は実は表の顔で、N社長は裏でも多数の通販会社を運営し
ているという事実を知ったのだった。
しかも、その複数からなる通販会社の商品群は、どれも怪
しい品物ばかりで、あらゆる雑誌に広告掲載されていた。
一例をあげると…、
・たった数週間で数十㎝背が伸びるマニュアル
・僅か数週間で十数㎏痩せられるマニュアル
・相手の脳に働きかけて思い通りに操るマニュアル
・包茎を直すパンツ
・超能力開発講座
・持ってるだけで恋人の出来るペンダント
etc・・・。
と、まぁ、どれもすべて全く効果のないインチキな商品ば
かりである。
しかし、N社長が裏でこういったインチキ商品を販売してい
る事と竹藪に2億円を放置した事実が重なった時、世間には
びこるインチキ商品の謎が僕の中ですべて解けたのだった。
つまり、少々乱暴な言い方だが、「粗悪なものであっても通
販事業は広告を打ちさえすればビジネスとして成立する」と
いうことを発見するに至ったのだった。
そして、その読みには間違いがなかった。
例えば、当時至る雑誌で広告展開されていた商品にマユツ
バものの代表とも言える、競馬の必勝法と銘打った「グリ
ーンブック」があった。
これは一部が3万5千円もする高額商品だ。
この「グリーンブック」は、一流誌から3流誌まで含めて、
あらゆる雑誌に、なんと3ページに渡り広告掲載されていた。
実際に数えたことはないので、ハッキリとしたことは言えな
いが、僕の知る限りでも当時、7~8の週刊誌には掲載され
ていたので、おそらく20近い雑誌に広告掲載されていたので
はないだろうか。
で、ここで広告料の計算となるわけだが…、
このグリーンブックは表表紙、裏表紙それぞれの裏面には一
切広告掲載しておらず、もちろんカラー刷りなどもされては
いなかった。
広告が「観音」と呼ばれる3ページものであるという理由が
真っ先にあげられるだろうが、カラー刷りはやはり高くつく
というのも理由の一つだろうと思われる。
雑誌の広告料も、もちろんピンキリだが、一流誌を例にあげ
ると黒の単色1ページでなんど80万円~100万円もするの
である。
二流誌なら50~60万円
三流誌でも20~30万円はする。
知って驚きの世界だった。
「こんなもの誰が買うんだ?!」と思っていた「グリーンブック」
の広告料が、安い掲載誌でも1ページで20~30万円するなん
て。
しかも1誌ではなく、あらゆる雑誌で全く同じ広告を見てい
たのだから。
おまけに、その広告はたった1週間の命である週刊誌に掲載
されているのだ。
さらに驚くべきことは、毎週同じ雑誌に掲載されているとい
う事実。
そう考えると、この「グリーンブック」の広告掲載料は、ど
んなに安く見積もっても…、
7誌×30万円×3ページ×4週=2520万円
という驚くべき金額が弾き出されることになる。
何という事実だろうか!
この広告代を回収して更に利益を発生させているのだ。
【上は週刊大衆に掲載されたもので広告費は180万円!】
僅かばかりの利益で、この商売を手掛けているのではないこ
とは、1カ月の広告料が如実に物語っている。
だから、N社長の事件とその裏の事業の真実を知った時に、こ
こに記した広告の秘密に気付いたわけなのだ。
ちなみに一番料金の高い表紙の裏のカラー刷りは次のとおり。
・週刊少年ジャンプ 350万円
・女性自身 315万円
・FRIDAY 300万円
さらにダメを押せば、上記の雑誌の単色1ページ広告はいず
れも、120万円~180万円くらいしている。
僕はこの事実を知ってからというもの、国内全ての雑誌と新
聞の掲載料を調査し、あらゆる広告をストックして商材の研
究を実施した。
その結果、この世界の真実を知れば知るほど、通販事業に対
する成功は益々揺るぎないものとなったのである。
「商材さえあれば・・・」
そして、その思いはほどなく、まるで天に通じるかのように
現実となる。
…続く。
今日もお読み頂き、ありがとうございました。